一般に、皮膚のうるおい、すなわち水分量は”皮脂”、”天然保湿因子”、”角質細胞間脂質”という3つの物質によって一定に保たれています。これはあとで詳しく述べます
特に冬場は空気が乾燥し、角層間脂質の減少した皮膚では水分が蒸発し、角層がめくれ上がった状態になります。この状態を放っておくと、表皮の下の真皮にあるべき神経が、表皮内に伸び、痒みを発生させます。それで掻くと湿疹がますます悪化しますので、こまめなお手入れか大切です。
前に述べた
皮膚のうるおいの3つの物質を詳しく説明いたします。
1、
角質細胞間脂質(セラミド)
表皮で作られ、角質細胞と角質細胞のすき間をうめている脂のことです。角質細胞同士をくっつけるニカワの役割をするとともに水分をサンドイッチ状に挟み込み逃がさないようにします。アトピー性皮膚炎ではこれが減少しています。
2、
天然保湿因子
角質層にある低分子のアミノ酸や塩類などのことです。ナチュラルモイスチャーライジングファクター(NMF)ともいわれ、水分をつかまえて離さない性質を持っています。
3、
皮脂
皮脂腺から分泌される脂のことです。汗などと混じりあって皮膚の表面をおおい(皮脂膜)、水分の蒸発を防ぎます。ニキビの出来やすいところに発達しています。
アトピー性皮膚炎で皮膚が乾燥しているのにニキビができるのは、角層間脂質(セラミド)は少なく水分保持能は下がり乾燥しているにもかかわらず、皮脂の分泌が活発なためです。
またセラミドは表皮で作られているため、かぶれや日焼け等の炎症でも、容易に減少または消失することが考えられます。
前述したように表皮のターンオーバーは6週間かかりますので、理論的には炎症が治まってから6週間は、セラミドの減少または消失の状態が続くことになります。
また
後述いたしますように角層にセラミドが少ないと表皮細胞はNGF(Nerve growth factor)と呼ばれる神経成長因子を出します。この神経成長因子に反応する形で、本来は表皮と真皮の接合部で終わっているはずのかゆみを伝える神経が表皮の中にまで伸び、皮膚に些細な刺激でもかゆみを感じやすくなります。
このようなことを考えると痒みがなくなるのには、炎症が収まってからセラミドが角層に上がってくるのに時間がかかり、その後また痒みを伝える神経が表皮と真皮の接合部(元の位置)に戻るのに更に時間が必要と言うことになります。
皮膚の色
皮膚の色は表皮の最下層の基底層にある色素細胞(メラノサイト)
(図2)で作られています。色素細胞でメラニン顆粒を作り周りの表皮細胞に渡しています。これにより表皮基底層の細胞分裂する基底細胞は日光光線(紫外線)から守られています。紫外線は基底細胞の遺伝子を傷つけますが免疫がそれを修復します。しかし、ある一定回数を超えると修復できなくなり皮膚の腫瘍になったりします。昔に比べオゾン層が破壊され紫外線量が多くなっているため注意が必要です。
周りの細胞に渡されたメラニン顆粒は部位によっても異なりますが約6週間で垢となって脱落します。
炎症後の色素沈着及びその予防
前述したように皮膚の色は基底層にある色素細胞で作られていますが、有る程度の
炎症が起こると基底層とその下の真皮とを隔てている組織(基底膜)が壊れ、表皮に渡されるべきメラニン顆粒が真皮に落ちます。真皮に落ちると、もう垢となって表皮から落ちることは出来なくなりメラニン顆粒を食べる細胞(メラノファージ)が処理してくれるのを待つことになります。メラノファージは少数であるためメラニン顆粒がたくさん落ちると色が取れるのに年単位の期間が必要になります。真皮に落ちたメラニン顆粒をとる薬はありませんので真皮に落ちるのを防ぐことが肝心です。
アトピー性皮膚炎、かぶれ、たむし等で炎症を繰り返すと黒くなっていくのは、このように多くのメラニン顆粒が真皮に落ちるためです。
よくいわれるホルモン剤を外用すると色が黒くなると言うのは間違えで、実際には炎症を起こすと、基底層の直ぐしたにある毛細血管が拡張し赤味が出るため、その下に落ちているメラニン顆粒が見えにくく、ホルモン剤を外用すると急に毛細血管が収縮してその下に落ちていたメラニン顆粒が見えるため、そのように思われるのです。このことは、ある程度炎症で赤くなっているところは、ホルモン剤外用前でも、上から透明の定規などで圧迫すると、拡張した毛細血管内の血液が押しのけられ、病変部が周りの皮膚に比べ色が黒くなっているのが分かることより容易に証明されます。
以上のことより、
炎症は適切なホルモン剤などを早く外用して、早く炎症を抑えた方がメラニン顆粒が真皮に落ちるのを少量に抑えることが出来、色素沈着を残す可能性が減らせるわけです。また外用剤による、いわゆる”油焼け”は、日焼けと同じで真皮に落ちているわけではありませんから、前述したように約6週間で垢となって落ちます。
赤味が取れて、基底膜が修復するまでは、出来るだけ日光をさけてください。また赤味は適切な外用を1日2〜3回(専門医の指示通り)に塗布し早くとってください。蛍光灯でも微量ですが紫外線は出ております。
京都大学大学院医学研究科皮膚科学教授 宮地 良樹先生 の講演から
最近、かゆみをめぐって多くの新しい知見が得られており、皮膚科治療の進歩が期待されている。
かゆみ最新の知見
いくつかトピックを絞って解説する。
かゆみには大きく分けて、「末梢性のかゆみ」と「中枢性のかゆみ」の二つがある。
末梢性のかゆみのメカニズム
末梢性のかゆみの中心になるのはマスト細胞で、マスト細胞が多彩な刺激により活性化され、ヒスタミンなどのかゆみを起こす化学伝達物質が放出される。それが、表皮と真皮の接合部にある、「かゆみ受容体」といわれる求心性C線維を刺激し、そのインパルスが脳に伝わって「かゆい」と感じる。
かゆみを伴うさまざまな疾患
皮膚の病気に伴うかゆみの大部分は末梢性のかゆみによって起こる。しかし、皮膚以外の病気にも、かゆみを伴うさまざまな全身性疾患がある。たとえば、透析や黄疸、また貧血や糖尿病、あるいは甲状腺機能の障害によるかゆみ、さらに妊娠などによってもかゆみは生じる。このような全身性疾患によるかゆみは、中枢性のかゆみによって起こると考えられている。
中枢性のかゆみのメカニズム
たとえば透析や黄疸のある患者の場合、血液中のオピオイドペプチドと呼ばれるモルヒネ様物質が増えていることがわかっている。ご存じのようにモルヒネは痛みは止めるが、かゆみを助長する物質である。つまり、脳にはモルヒネ受容体があり、オピオイドペプチドがここを刺激することによって脳でかゆみを感じるということである。最近、我が国ではオピオイドペプチドの拮抗薬が開発されつつあり、将来的にはこの薬により全身性疾患に伴う中枢性のかゆみを止めることができると期待されている。
ドライスキン(乾燥肌)によるかゆみ
ドライスキンによるかゆみ発現のメカニズム
皮膚が乾燥してくると表皮細胞はNGF(Nerve growth factor)と呼ばれる神経成長因子を出す。この神経成長因子に反応する形で、本来は表皮と真皮の接合部で終わっているはずのかゆみを伝える求心性C線維の終末が表皮の中にまで伸びてくることがわかってきた。そして、かゆみを感じる神経の終末が角層近くまで到達することで、皮膚に些細な刺激、たとえば髪の毛が触れたり、下着のチクチクした刺激などでもかゆみを感じやすくなる。これがドライスキンによってなぜかゆみが起こるのかという最近の知見のひとつである。
またセラミドは表皮で作られているため、かぶれや日焼け等の炎症でも、容易に減少または消失することが考えられます。
前述したように表皮のターンオーバーは6週間かかりますので、理論的には炎症が治まってから6週間は、セラミドの減少または消失の状態が続くことになります。このようなことを考えると痒みがなくなるのには、炎症がおさまってからセラミドが角層に上がってくるのに時間がかかり、その後また痒みを伝える神経が表皮と真皮の接合部(元の位置)に戻るのに更に時間が必要と言うことになります。
皮膚は掻破するたびに悪くなる。アトピー性皮膚炎の赤ちゃんでお腹に重症の湿疹が見られるが、手の届かないおむつ部分には発疹がないということがよくある。仮にこれが卵アレルギーによるものとすれば、おむつの形にだけアレルゲンが到達していないとは考えられず、掻破によって病気が悪くなったことを証明しているといえる。成人の場合も、手の届かない背中の部分にはあまり湿疹ができない。これをバタフライサインという。
掻破による病変の増悪
皮膚には掻破することで少なくとも三つの悪影響が発生している。
一つ目は物理的なバリア破壊。血が出るほど掻破するということは、表皮には血管がないため、基底膜を破るほどの究極のバリア破壊が起こっていることになる。
二つ目は表皮細胞からの炎症性サイトカインの放出。皮膚を軽くこするだけでも表皮細胞からはIL-1やTNF-αといった炎症性サイトカインが出ることがわかっており、これにより炎症がさらに増悪する。
三つ目は軸索反射。皮膚をこするとその刺激は求心性C線維を上降するが、一部は逆行し、C線維の末端からサブスタンスPなどの神経ペプチドが放出される。サブスタンスPが非アレルギー的な刺激によってマスト細胞を活性化させ、炎症が助長される。
このように掻破によってますます炎症が悪くなり、そのためにかゆみが助長されるという、いわゆるかゆみと掻破の悪循環が繰り返されることによって皮膚病変の増悪が起こるのである。
掻破予防の工夫
掻破を予防するためには、かゆみの誘因を除去したり、あるいは薬によって止めることが大事である。それに加えて、臨床的な工夫によって引っ掻いても傷ができなくすることも可能である。たとえば、爪を短く切るだけでも掻破痕を減らすことができる。また、子供の場合、パジャマの裾や袖をテーピングすると夜寝ている間の掻破を防ぐことができる。あるいは、引っ掻いても滑って傷を予防できる二重式手袋や防護パジャマなど、特殊なグッズも市販されている。
かゆみの刺激とかゆみの感じ方
最近、神経生理学の進歩によってかゆみに関するさまぎまなことがわかってきた。先に説明したように、モルヒネ様物質のμ−opioidsはかゆみを増強する。それに対して、κ-opioidsはかゆみを抑制することがわかってきた。これが現在、透析や黄疸のかゆみの治療薬として期待されている。
一方、お酒を飲んだり、お風呂に入って温まると、ほとんどの人がかゆみを訴える。これは暖かい刺激によってかゆみが増強するためである。したがって、かゆみを生じた場合は、冷やしたほうが合理的な対処法といえる。よく熱いシャワーを浴びるほうがかゆみが止まるといわれるが、これは熱い刺激によって痛みを感じるとかゆみが抑制されるからである。しかし、やがて痛みもなくなり、ポカポカと暖かくなるとかゆみを感じるようになってくる。こうした神経生理学の進歩を日常生活指導に応用していくことも重要である。
アトピー性皮膚炎の新しいかゆみの概念
最近はアトピー性皮膚炎のかゆみのメカニズムでも、神経生理学的な進歩がみられる。先に説明したように普通の人の場合、痛みが出ればかゆみは抑制されて掻くことをやめるのが普通である。しかし、アトピー性皮膚炎の患者の場合、この痛み刺激でさえもかゆみを助長する刺激になることが解明されている。アトピー性皮膚炎の場合、一次・二次ニューロンの感作によって、通常なら痛みを生じる刺激さえもかゆみにつながっていると考えられる(生駒による)。
今後、漸次追加していきます。
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